リチウムイオン電池が寿命を持つのは何故? 寿命を延ばすにはどうしたらよい?

目次

  1. はじめに
    リチウムイオン電池について簡潔に紹介
  2. 寿命が生じるメカニズム
    電極材料の化学的な劣化
    電解液の劣化
    界面反応の影響
  3. 寿命に影響する要因
    温度・充電速度・充放電深度の影響
  4. 寿命を延ばす技術的進歩
    最新の研究と寿命延長技術の紹介
  5. まとめ・長持ちさせるには?
    リチウムイオン電池を長持ちさせるための使用方法と未来の見通し

1. はじめに

 リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコン、電動車両に至るまで幅広い製品で利用されています。その高いエネルギー密度と高い充電効率から、私たちの日々の生活に欠かせない技術となっています。一方で、何故、リチウムイオン電池には寿命があるのでしょうか?
 この記事では、リチウムイオン電池の寿命に影響を与える主な要因と、それらの寿命を延ばすための方法について詳しく解説します。

2. 寿命が生じるメカニズム

 リチウムイオン電池の寿命に関わるメカニズムは複数の要因があり、使用している電池の材料や構造設計、使用方法によって異なります。ここでは、そのうち主要な要因であるについて説明します。それは、「電極材料の化学的劣化」、「電解液の劣化」、「電極と電解質のインターフェースでの反応」の3つとなります。
 以下でそれぞれの要因について詳しく説明します。

1. 電極材料の化学的な劣化
 リチウムイオン電池の電極はリチウムイオンを受け入れたり放出したりすることによって、充放電を行う機能を持っていますが、このリチウムイオンをやり取りする過程で電極材料が化学的に劣化し、徐々に容量が失われる場合があります。

 正極の場合: 最近の正極活物質としては、NMC(ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム、いわゆる三元系)、LFP(リン酸鉄リチウム)が主流で用いられていますが、特にハイニッケルのNMC系においては結晶構造が比較的不安定であるため、リチウムイオンが挿入脱離する過程において、不可逆な結晶構造の変化が生じることがあります。この劣化は、層状の結晶構造の破壊されたり、表面の遷移金属溶出などによって更に進行します。

 負極の場合: 通常、負極活物質としてはグラファイトが主に使用されており、少量のシリコンを用いる場合があります。いずれの活物質も充電時にリチウムイオンを吸収し、体積が膨張します。この体積膨張はシリコン系活物質においてより顕著に見られ、これによって活物質の表面に微細な亀裂が発生する場合があり、充放電効率の低下に繋がります。

2. 電解液の劣化
 リチウムイオン電池の性能と安全性にとって、電解液の安定性は非常に重要です。電解液は電極間のリチウムイオンの移動を担う役割を持ちますが、以下のような理由で劣化します。

 熱的・化学的劣化: 電池の使用中や充電中にはジュール熱が生じるため過熱される場合があります。発熱量が大きい場合、酸化還元反応がより生じやすくなるため、電解液が分解しやすくなり、結果としてガス発生や不純物の形成、電解塩濃度の低下などを引き起こします。これが内部抵抗の増加や容量の低下に繋がります。

3. 界面反応の影響
 負極と電解液の界面においては、リチウムイオンの移動に伴い、還元的な電気化学反応が生じます。これらの反応によって、電極表面に電解液分解生成物である固体電解質界面(SEI)層が形成されます。SEI層は安定していれば電極を保護する重要な役割を持っていますが、不安定な場合は電池の内部抵抗を増加させ、劣化を促進することがあります。界面において想定されるのは、下記3点が主要な不具合になります。

 SEI層の過剰生成: SEI層は通常、電解液や電解質が還元反応して生成される有機・無機複合物で構成されます。しかし、SEI層が不均一に形成されると、電極表面の不均一な反応を引き起こし、局所的な過充電や過放電が発生しやすくなります。また長期の使用を繰り返すと、徐々にSEI層は厚くなっていき、そこにリチウムイオンがトラップされたり、抵抗成分となります。

 リチウム析出: 充電中に電流が局所集中した結果、リチウムイオンが電極上の特定の場所に蓄積し、電極表面に金属リチウムが析出する場合があります(リチウム析出)。この金属リチウムはリチウムイオンの授受を阻害し、さらには内部ショートを引き起こし府安全化させる要因となることもあります。

 界面での電解液の分解: 高電圧下や不適切な充電条件下で、電解液が分解し、ガス発生を生じることがあります。これにより、バッテリー内部の圧力が増加し、バッテリーの安全性が低下したり、内部抵抗が上昇する可能性があります。

3. 寿命に影響する要因

  • 温度…高温での動作はリチウムイオン電池の化学反応が加速するため、寿命が低下する要因になります(アレニウス則)。一方で、低温下ではリチウムイオンの移動速度が低下するため、電池特性が低下したり、リチウム析出が起こりやすくなったりします。
  • 充放電速度…高速充電は電池への負荷が高く、電極内での局所的な劣化や、発熱による劣化が生じます。
  • 充放電深度…リチウムイオン電池は、一般的には満充電状態では負極の膨張量が大きく、正極は結晶構造が不安定化しやすく、劣化に繋がります。放電状態のほうがエネルギー的には安定ではあるものの、放電深度が深いと劣化する場合もあります。

4. 寿命を延ばす技術的進歩

 これらの劣化現象への対策として、材料科学の進歩による新規な活物質や電解液(主に添加剤)の開発や、バッテリーマネージメントシステム(BMS)の最適化が重要です。正確な充電制御と温度管理を行うことで、電極と電解質の劣化を最小限に抑えることが可能です。最近のスマートフォンでは、満充電時間が長期にならないように調整されているのも、その一つです。

 さらに、使用後の寿命という観点では、電池のリサイクルと再利用も重要な課題です。使用済みのリチウムイオン電池から有用な材料を回収し、新しい電池の製造に利用することで、資源の持続可能性と環境負荷の軽減が期待されます。リサイクルについては、多くのベンチャー企業が出てきています。

5. まとめ・長持ちさせるには?

 リチウムイオン電池は長寿命化しているとは言え、本質的には化学反応であるため、有限な寿命を持っています。そのため、リチウムイオン電池を長持ちさせるよう工夫することが重要です。

1. 温度管理 : デバイスを直射日光の当たる場所や高温になる場所に置かないことが好ましいです。また、寒冷地での使用の際は、バッテリーを温めてから使用することが推奨されます。
2. 充電習慣の見直し : 常に100%まで充電せず、20%から80%の範囲で充電することが理想的と言われています。
3. 定期的なメンテナンス : デバイスのバッテリー状態を定期的にチェックし、異常が見られる場合は早めに対処を行います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました