今やリチウムイオン電池(LIB)は、日常生活や産業のさまざまな場面で活用されています。一方で、電池技術に関連する略語は非常に多く、特に英語の略称は、初学者にとっては理解するのが難しい場合が多いのではないかと思います。本記事では、リチウムイオン電池に関連する代表的な略称をカテゴリーごとに整理し、それぞれの用語の意味について詳しく説明していきます。
リチウムイオン電池の基本的な知識については、下記記事にて解説しています。
電池の状態を表現する略称
SOC (State of Charge) – 充電状態
SOCは電池の充電状態をパーセントで表す指標です。SOC 100%は満充電、SOC 0%は完全放電を意味します。たとえば、電気自動車(EV)のバッテリー管理においてSOCは非常に重要で、走行可能距離の予測や充電タイミングの判断に用いられます。ちなみに過充電試験などの際には、SOC150%といったように、SOC100%を超えた記載もされます。
DOD (Depth of Discharge) – 放電深度
DODは電池がどれだけ放電されたかを示す指標で、SOCの逆となります。DOD 100%は完全放電、DOD 0%は満充電状態です。DODもSOCと同様に電池の残存容量であったり、寿命や入出力に大きな影響を与えるため、家庭用エネルギー貯蔵システム(ESS)やEVでは、通常DODを制限してバッテリーの寿命を延ばしたりします。
SoH (State of Health) – 健康状態
SoHは電池の健康状態を示し、電池がどれだけ劣化しているかを表す指標です。SoHが低下すると、電池の性能も低下し、最終的には交換が必要となったりします。EVやESSなどでバッテリーの寿命管理に使用されます。
EOL (End of Life) -寿命
EOLは電池が寿命の終わりに達した状態を指します。一般的には初期容量の80%が閾値で、ここに達するまでの走行距離や使用時間を示したりします。。
電池の構造と管理に関する略称
BMS (Battery Management System) – バッテリー管理システム
BMSは電池の充放電状態を監視し、安全性や効率を確保するシステムです。過充電、過放電、温度管理を行い、バッテリーのパフォーマンスを最適化し寿命を延ばします。特にEVでは欠かせない技術で、パック内に搭載されています。
PCM (Protection Circuit Module) – 保護回路モジュール
PCMは電池の過充電、過放電、過電流から保護するための回路で、比較的小型のデバイスやポータブルの電池パックでよく使用されます。
電池の材料に関する略称
LIB (Lithium Ion Battery) – リチウムイオン電池
LIBはリチウムイオン電池の略称で、「リブ」と読みます。この電池は軽量でエネルギー密度が高く、スマートフォンやノートパソコン、EVなど多くのデバイスで使用されています。
LFP (Lithium Iron Phosphate) – リン酸鉄リチウム
LFPはリチウムイオン電池の正極活物質の一種で、安全性が高く長寿命です。特にエネルギー貯蔵システムや電動バスで利用されています。近年では、電気自動車用途でも多く用いられています。
NMC (Lithium Nickel Manganese Cobalt Oxide) – ニッケル・マンガン・コバルト酸化物
NMCはリチウムイオン電池の正極材料として広く使用されており、高いエネルギー密度と良好なサイクル寿命を提供します。近年は、NMC811などの高いニッケル配合比率とすることで高容量化が進んでいます。
LCO (Lithium Cobalt Oxide) – リチウムコバルト酸化物
LCOはリチウムイオン電池の正極活物質の一種で、高エネルギー密度が特徴です。ノートパソコンやスマートフォンなどの小型電子機器で使用されることが多いです。
NCA (Nickel Cobalt Aluminum) – ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物
NCAはリチウムイオン電池の正極材料の一つで、ニッケルの含有量が多いことが特徴です。主に高性能な電動自動車に使用されます。
Gr (Graphite) – グラファイト
Grはリチウムイオン電池の負極活物質として一般的に使用されている炭素材料です。長いサイクル寿命と高い安定性が特徴で、多くのリチウムイオン電池で利用されています。
LTO (Lithium Titanate) – チタン酸リチウム
LTOはリチウムイオン電池の負極活物質で、安全性が非常に高い反面、エネルギー密度が低いのが特徴です。高速充電が可能であり寿命も長いため、バスやトラックなどの商用車での利用が期待されています。
SiO (Silicon Oxide) – 一酸化ケイ素
SiOはリチウムイオン電池の負極材料として使われることがあり、従来のグラファイトに比べて理論容量が高いことから、次世代電池材料として注目されています。しかし、膨張収縮が大きいため、短寿命となりやすく、使用される場面は限定されています。
電池の表面反応に関する略称
SEI (Solid Electrolyte Interface) – 固体電解質界面
SEIは負極表面に形成される電解液分解物からなる層で、リチウムイオンの移動を促進しながら負極材料を保護します。SEI層の形成と制御は、電池の性能と寿命に大きく影響を与えます。
CEI (Cathode Electrolyte Interface) – 正極電解質界面
CEIは正極表面に形成される電解液分解物からなる層で、SEIと同様に、電池の性能に影響を与えます。特に高電圧での使用時に重要です。
電気と電力に関連する略称
DC (Direct Current) – 直流
DCは電池が供給する直流電流を示します。一般的には、バッテリー駆動のデバイスやシステムはDC電流を使用します。
AC (Alternating Current) – 交流
ACは家庭用電源や一部の充電インフラで使用される交流電流を示します。例えば、EVの充電インフラでは、ACをDCに変換してバッテリーに充電するシステムがあります。
IR (Internal Resistance) – 内部抵抗
IRは電池内部の抵抗を示し、電池の効率と熱発生に影響を与えます。直流で測定する場合はDCR(Direct Current Resistance)、交流で測定する場合はACR(Alternating Current Resistance)と呼ばれます。
C-rate (Charge Rate) – 充電速度
C-rateは電池の充放電速度を示す指標で、1Cは1時間でSOC100%まで充電可能な電流量を意味します。急速充電の際には高いC-rateが必要です。
Ah (Ampere Hour) – アンペア時
Ahは電池の容量を示す単位で、1Ahは1アンペアの電流を1時間供給できる容量を意味します。多くのデバイスのバッテリー仕様に記載されています。mAh(1000mAh = 1Ah)もよく使用されます。
電池の充電方法に関する略称
CCCV (Constant Current Constant Voltage) – 定電流定電圧充電
CCCVはリチウムイオン電池の充電方法の一つで、初期段階で一定の電流で充電し、電池の電圧が特定のレベルに達すると、一定の電圧を保ちながら充電を続けます。この方法は、電池の寿命を延ばし、安全な充電を確保します。
CC (Constant Current) – 定電流
CCは一定の電流で充電または放電する方法です。電池の充電初期段階でよく使用されます。
CV (Constant Voltage) – 定電圧
CVは一定の電圧を維持しながら充電または放電する方法です。充電の後半で使用され、電池の過充電を防ぎます。
車両やエネルギーシステムに関する略称
EV (Electric Vehicle) – 電気自動車
EVはバッテリー駆動の電気自動車を指します。リチウムイオン電池はEVの主要なエネルギー源です。PHEVやHEVなどを包括する概念となっています。
PHEV (Plug-in Hybrid Electric Vehicle) – プラグインハイブリッド車
PHEVは、内燃機関とバッテリーを併用する車両です。バッテリーは外部から充電可能で、電動モードとハイブリッドモードを切り替えて使用します。
ESS (Energy Storage System) – エネルギー貯蔵システム
ESSは、リチウムイオン電池を利用してエネルギーを貯蔵し、必要なときに供給するシステムです。家庭用から産業用まで幅広く使用されており、再生可能エネルギーの効率的な利用にも貢献します。
規格と標準に関する略称
UL (Underwriters Laboratories) – アメリカ保険業者安全試験所
ULは製品の安全性を評価するアメリカの機関で、リチウムイオン電池製品の安全基準を設定しています。UL認証は、製品が安全基準を満たしていることの証明です。
IEC (International Electrotechnical Commission) – 国際電気標準会議
IECは、電気技術に関する国際標準を制定する機関で、リチウムイオン電池の安全性と性能に関する基準も含まれています。IEC基準は、製品の品質と互換性を保証します。
SAE (Society of Automotive Engineers) – アメリカ自動車技術者協会
SAEはアメリカの非営利団体で、自動車および輸送技術の標準を設定しています。リチウムイオン電池の性能や安全性に関するガイドラインも策定されています。
まとめ:リチウムイオン電池の略称を理解して、電池の知見を深めよう!
リチウムイオン電池に関連する略称は非常に多岐にわたっており、それぞれが重要な意味を持っています。本記事では、基本的な用語についての解説を行いました。これらの略称を理解することで、よりリチウムイオン電池への理解が深まると幸いです。
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