今や、リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコン、電気自動車など、現代のあらゆるテクノロジーにおいて欠かせない存在となっています。しかし、電池が化学反応である以上は寿命がありますので、使用した後に廃棄やリサイクルなどを適切に行うことが大事です。
特にリサイクルについては、資源の再利用と環境保護の観点から重要度が増しています。本記事では、まずリサイクルの難しさや課題について説明したのちに、リチウムイオン電池の具体的なリサイクル手法と、有名どころの代表的な企業について詳しく解説していきます。
リチウムイオン電池のリサイクルが難しいのは何故?
特に電気自動車におけるリチウムイオン電池のリサイクルは難航している部分があります。これにはいくつかの理由があります。
- 安全性の問題
リチウムイオン電池はニッケル水素電池や鉛電池に比べて、容量・電圧が大きく、その分だけエネルギーを蓄えています。リサイクル前に放電することで危険性を下げているとは言え、リサイクル工程での発火リスクをそれなりに抱えています。 - 解体の困難さ
電気自動車に搭載されたリチウムイオン電池は、一般的にはモジュールやパックといった、堅牢な筐体で固定されています。この構成がメーカーや車種によって様々なので、解体するのも容易ではありません。 - 材料が揃っていない
リチウムイオン電池において使用される材料はメーカーによって様々で、特に正極活物質や負極活物質は差が大きくあります。正極活物質の中でNCM系(ニッケルコバルトマンガン酸リチウム)に限定したとしても、ニッケル、コバルト、マンガンの含有比率がものによってはかなり変わります。 - リサイクル費用に見合わない
リサイクルしてそれなりに高品質な材料を改めて製造しようとすると、再生にかかる製造コストがかさみます。更に最近は、正極活物質として価値の高い遷移金属が用いられるNCM系から、安価なLFP系(リン酸鉄リチウム)に移り変わってきています。その結果、よりコストが見合わなくなってきています。
リチウムイオン電池のリサイクル手法
それでは次にリサイクル手法について説明します。ここでは、代表的な3種類について解説します。
機械的リサイクル
解体・分離プロセス: 機械的リサイクルでは、まず電池を安全に放電させ、その後破砕機で粉砕します。次に、磁力選別や篩選別、浮遊選別などの手法を利用して金属成分と非金属成分への分離を行います。たとえば、磁力選別では鉄やニッケルなどの磁性体が分離する感じです。
メリットとデメリット: この方式はプロセスが比較的シンプルで初期投資が低い点がメリットです。また、乾式プロセスのため環境負荷も少ないことも利点です。しかし高純度の材料回収は一般的に難しく、また粉砕による微細な粉塵が発生しやすいことも安全面の課題です。
湿式リサイクル
前処理プロセス: まず放電された電池を機械的に破砕します。
溶媒浸漬プロセス: 次に破砕された材料を硫酸や塩酸などの強酸酸性溶媒に浸漬することで、金属成分を溶出させます。
分離・精製プロセス: 溶出した金属成分を沈殿することによって、選択的に分離します。その後で、沈殿物を濾過、精製して高純度の金属とします。
メリットとデメリット: 湿式リサイクルは、高純度の材料回収が可能なことが他にない利点です。特にリチウムやコバルトといた、リサイクル価値の高い金属を高効率で回収できます。一方で、薬品を使用することに伴う廃液処理が必須となります。またプロセス的にも複雑で、コストが高い点も課題です。
乾式リサイクル
前処理プロセス: まず放電した電池を粉砕します。
熱処理プロセス: 粉砕された材料を高温炉で焼成し、金属成分が揮発、ガス化します。温度としては、約1000°C以上の高温で処理することが一般的です。
回収プロセス: ガス化した成分を凝縮させて、固体として回収します。その後に更に精製工程を経ます。
メリットとデメリット: この手法のメリットは、大量処理が可能でプロセスが短時間で終了することです。また、プロセスが比較的簡便である点も利点です。しかし、高温処理には大量のエネルギーが必要であり、運用コストが高いことがデメリットです。また、ガス化した有害物質が大気中に排出されるリスクもあります。
リチウムイオン電池のリサイクル手法比較
これらリサイクル手法について、比較表として一覧化したのが下記になります。どの手法も一長一短の部分があり、これらの手法を組み合わせたり、更に各種改良を加えようと研究開発がなされています。
リサイクル手法 | プロセスの例 | メリット | デメリット | 代表的な企業 |
---|---|---|---|---|
機械的リサイクル | 放電 → 破砕 → 磁力選別 → 篩選別 → 浮遊選別 | プロセスがシンプルで初期投資が低い。環境負荷も少ない。 | 高純度の材料回収に難。 粉砕による粉塵。 | Redwood Materials |
湿式リサイクル | 放電 → 破砕 →酸性溶媒浸漬 → 金属溶出 → 沈殿・精製 | 高純度の材料回収が可能。 | 廃液処理が必須。 プロセスが複雑で 高コスト。 | Umicore, American Manganese Inc. |
乾式リサイクル | 放電 → 破砕 → 焼成 → 金属成分の凝縮・回収 | 大量かつ短時間で処理可能。 | 高温処理が必要で、 エネルギー大。ガス化金属の排出リスク。 | Umicore |
代表的なリサイクル企業
次に代表的なリサイクルメーカー2社について解説します。
Umicore
Umicoreは正極活物質メーカーとして有名ですが、リサイクルにも力を入れています。リチウムイオン電池のリサイクルにおいては先導をとってきた印象です。
リサイクル手法: 湿式リサイクルと乾式リサイクルを組み合わせたプロセスを採用しています。コバルト、ニッケル、銅の回収率は95%以上、リチウムの回収率は80%に達しており、高いレベルにあります。自動化も進んでおり、手作業を最小限に抑えた効率的なプロセスになっています。
Redwood Materials
アメリカのネバダ州に拠点を置くRedwood Materialsは、リサイクル分野で急成長を遂げている企業です。パナソニックなど有名どころとも、既に売買契約を結んでいたりします。
リサイクル手法: 機械的リサイクルと湿式リサイクルを組み合わせたプロセスを採用しています。こちらも、高効率な金属回収を実現しており、既に大規模なリサイクル施設を運営している段階にあります。
まとめ
今回はリチウムイオン電池のリサイクルについてまとめてみました。各リサイクル手法には一長一短があり、技術革新とコスト効率の改善が求められています。将来的には、より効率的で環境に優しいリサイクル手法の開発と普及が期待されます。
正直、今後も採算が取れるのかは疑問はありますが、今後の資源のひっ迫や、未来の環境への影響を考えると、非常に重要なトピックですので、今後の技術開発に期待したいところです。
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